「日本一予約が取れないレストラン」として知られるイタリア料理店「ラ・ベットラ・ダ・オチアイ」のオーナー。
厚生労働省の「現代の名工」、文化庁長官表彰、黄綬褒章などを受賞し、令和2年からは日本イタリア料理協会名誉会長にも就任。
「きょうの料理」から「ジョブチューン」などメディアにも多数出演する、料理人人生60年を誇るイタリア料理界のレジェンド。

その落合務シェフが今月28日に出版した『プロの味が最速でつくれる! 落合式イタリアン』(落合務著 / ダイヤモンド社)は、驚きづくしの本である。

『プロの味が最速でつくれる! 落合式イタリアン』(落合務著/ダイヤモンド社)

コロナ禍の闘病を経て自炊するように

「コロナでみんなが外出を控えていた時期、実は僕は闘病していました。
ラ・ベットラを次世代に引き渡して、これでちょっとラクできるかなと思っていた矢先、2021年にがんが見つかったんです。
3週間入院して、1年かけて抗がん剤治療をして、なんとか寛解という言葉をもらえました。
抗がん剤治療をすると食欲がなくなるんだけど、負けるもんかと一所懸命食べていたら太っちゃって」(『プロの味が最速でつくれる! 落合式イタリアン』より)

「はじめに」で明かした、店は息子の剛(たけし)社長が引き継いだこと。がんを宣告され治療を受けていたこと。
どちらも初耳の方も多いかと思うが、抗がん剤治療を終えた落合シェフは、治療中に増えた体重を自炊によって落とした。
料理人人生60年において、自炊は初めての経験だったという。

毎日店の厨房で調理してきたシェフだが、約1年にわたる自炊生活を経て生みだした本書のレシピは、これまで紹介してきたものとは、根本から違う。

がんが寛解して、仕事に復帰した落合務シェフ。写真:『プロの味が最速でつくれる! 落合式イタリアン』より

なぜなら、レストランがおいしさの追求や味の再現性を優先するとすれば、自炊はできるだけ家にあるものを無駄なく使い、あまり手間や時間をかけずに、それなりにおいしくできることが求められるからだ。

レストラン料理は食べる人が主役であり、自炊は作る人が主役である。
落合シェフのこれまでのレシピ本は、間違いなく前者の料理であった。
私たちは「予約の取れないレストラン」の味を再現したくて、本を購入した。
だが本書で紹介する料理は、「かんたん」で「作りやすく」、同時に店の味にも近いという、シェフに究極の選択を迫るものなのだ。

以下は、本書で紹介する料理の一例である。

アンチョビの代わりにみそで作ったバーニャカウダ

あさりの缶詰で作るボンゴレスパゲティ

生クリームもホワイトソースも使わないクリームグラタン

うにを入れないうにの味のパスタ

全卵のカルボナーラ