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新作アニメ『トライガン・スタンピード』CGでヴァッシュを作る“中身”はアニメーター自身が兼任! ゲームとアニメCGの作りかたの違いは意外なところにも【アニメの話を聞きに行こう!】 - ファミ通.com

 ファミ通.comがアニメ業界の気になる人たちへとインタビューする連載“アニメの話を聞きに行こう!”。今回取り上げるのは、2023年解禁予定のアニメ『TRIGUN STAMPEDE(トライガン・スタンピード)』。

 1998年に一度アニメ化された内藤泰弘氏のマンガ『トライガン』が、“手描きアニメ”ではなく今度は“CGアニメ”として新作アニメーション化。オレンジのCG技術だからこそ可能なアクションや、キャラクターの感情が伝わってくる豊かな表情などを取り入れた意欲作となっています。

TVアニメ『TRIGUN STAMPEDE』PV第二弾

 インタビュー後編となる今回は、ゲームファンもちょっと気になる、アニメ業界のCG制作に関する話題をお届け。手描きアニメとはぜんぜん違う、知っているようで知らないCGアニメーションについてちょっと詳しくなれる、興味深い話が満載です。

 なお、前編は『TRIGUN STAMPEDE』制作の経緯や内藤氏の『トライガン』執筆時の裏話が満載となっているので、まだ読んでいない方はこちらもぜひチェックしてみてください!

内藤泰弘(ないとう やすひろ)

マンガ家。代表作は『トライガン』、『血界戦線』で、いずれもアニメ化されている。またゲーム『ガングレイヴ』シリーズのキャラクターデザイン及び原作も担当。

武藤健司(むとう けんじ)

オレンジ所属のアニメーション監督。『宝石の国』や『HELLO WORLD』、『BEASTARS』などの絵コンテ・演出を経て、『TRIGUN STAMPEDE』が初監督作。

和氣澄賢(わき きよたか)

アニメーション制作会社・オレンジ所属のプロデューサー。『宝石の国』、『BEASTARS』、『ゴジラS.P』に続き、『TRIGUN STAMPEDE』を手掛ける。

CGアニメは視聴者と制作者の認識のズレが大きい?

――内藤先生としては『トライガン』をリブートし、しかもCGでアニメ化するという点にはとくに抵抗なく?

内藤新しい表現で『トライガン』が観られるというのは、チャレンジとしておもしろいんじゃないかなと思いました。

和氣内藤先生に快諾いただけて本当によかったです。

――和氣プロデューサーにお聞きしますが、ハードなストーリーとコミカルなキャラクター、イカしたアクションが見どころの『トライガン』をCGで描く利点というのは、どのあたりにあるのでしょう? やはりアクションシーンをダイナミックに動かせるというところでしょうか?

和氣「キャラクターをたくさん動かすアクション作品だからCG」ということでもなく、「トータルの映像としてまったく違うものになるから、リブートはCGアニメでやる意味がある」という意図がありますね。

 僕は作画のアニメとCGのアニメを両方経験していますが、ふたつの手法のいちばんの違いって1カットあたりの“尺感”だと思うんですよ。

――尺感。

和氣ワンカットの長さですよね。作画のアニメは基本的に“1カット1アクション”で、編集でつないでテンポよく見せるのが得意です。

 CGアニメだと、尺をゆったり見せることができるぶん、いろいろな芝居を入れ込めるんです。1カットあたりの尺が変わるということは、編集の考えかたが変わる。音楽の付けかたも変わる。結果としてトータルで見るとぜんぜん違うものになるはずです。

新作アニメ『トライガン・スタンピード』CGでヴァッシュを作る、“中身”はアニメーター自身が兼任! ゲームとアニメCGの作りかたの違いは意外なところにも【アニメの話を聞きに行こう!】

――CGだとカットをゆったり見せられるというのはどういった理屈なのでしょう?

和氣日本の作画アニメってリミテッド・アニメーション(※)という手法とともに発展してきたので、“どれだけコストを抑えて必要なことをお客さんに伝えていけるか”という考えかたの中で作られてきました。それで“キャラクターの芝居を入れ込み過ぎない”、1カット1アクションといった描きかたにつながっているのだと思います。

 CGのアニメーションの場合、1カットにいろいろな芝居が入ったり長い芝居を入れたところで、作る労力ってそんなに変わらないんです。カメラをぐりんぐりん動かすといったこともできますが、それは本質的な長所ではなく、1カットで長いシーンが作れるのが長所だというのが僕の認識ですね。

※ディズニーなど海外のアニメーションで発展してきた秒間24コマを基本とした“フルアニメーション”の3分の1の、秒間8コマを基本としたアニメーションにするなど、国内のアニメはこのリミテッド・アニメーションを基礎として発展してきた。

――武藤監督としては、新作『TRIGUN STAMPEDE』のアピールポイントはどのあたりだとお考えですか?

武藤『TRIGUN STAMPEDE』では、いろいろな技術的チャレンジをしているんですよね。フェイシャル(表情)とか。いわゆるこれまでCGが得意としてきたのは無機質なメカ描写とかだったのですが、そうではない有機的な描写にもチャレンジしています。

 このあたりは海外のアニメーションを参考にしているんです。いままで日本のCGアニメが不得意で、あまり寄り添ってこなかったところに寄り添おうとしているのが『TRIGUN STAMPEDE』の技術的な見どころのひとつです、けど……そこまで自信を持って言っちゃわないほうがいいですかね……?

――急に弱気に(笑)。

和氣いや、それくらい言って大丈夫!(笑) CGアニメで作る人間の表情って、僕もいちばん難しいところだと思っています。でも観てくれる方にどういう印象を与えるかっていうのが大きく変わってくるポイントでもあるので、今回はそこをがんばってみるっていうのがオレンジとしての『TRIGUN STAMPEDE』で目指すべきものなんです。

内藤何と言いますか、『TRIGUN STAMPEDE』の制作を見てきた印象としては、お客さんが想像している“CGを採用する理由”と、アニメ業界が思う“こういうところにCGの利点がある”という部分って、ぜんぜん違う感じがします。観ている方は、「CGにすることでコストカットできるからやるんでしょ?」と考えている人もいると思うんですよ。

和氣「CGで一度モデリングしちゃえば、あとはいくらでも動かせるんでしょ」くらいに思われているところはあるかもしれません(苦笑)。

内藤オレンジさんから聞こえてくる話だと、どうやらこれコストカットにはぜんぜんなってないよなぁ……それどころかとんでもないこだわりかたをしているんじゃねえの?と(笑)。そのズレについて、もっと伝わればいいのにって思います。ものの考えかたの基本から大きく違っている印象です。

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――手書きアニメだと、いかにアニメーターが苦労して作品に命を吹き込んでいるのかという話はわりと世に出ますよね。アニメ業界を舞台にしたマンガやアニメもありますし。一方CGアニメは、どんなふうに作られているかという話があまり表に出ていないからそういった認識のズレが生じるのかもしれません。

武藤ああ、なるほど。

和氣ただ、CGを制作するプロダクションっていま、どこの会社も作りかたが違うんですよ。作画アニメを再現した、セルルックなCGが得意なところもあれば、フォトリアルなものを作るところもある。ピクサー・ディズニーライクな表現が得意なところもある。

 手書きアニメってどこも作りかたは統一されていて広まりやすいというのがあるのかなと。CGアニメの場合は「うちの会社はこうですよ」ということでしかないんです。これもCGアニメの話が広まりづらい理由としてあるかもしれませんね。

――確かに多数の会社や個人のアニメーターも使って横断的に制作される手描きアニメと異なり、CGアニメの場合は社内制作が基本ということが多くて、作りかたは制作会社ごとに異なり、それが受け継がれてそれぞれの“秘伝のタレ”みたいになっているんですね。

和氣そうですね。みんな同じ作りかた、同じ表現ではつまらないです。これからもオレンジはオレンジならではの作りかたを追求していくことになると思います。

アニメーターも“役者”である

――さきほど「CGアニメで難しいのはキャラクターの表情」というお話がありましたが、ゲームの場合は体の動きと同様に、表情もアクターさんの顔にマークを付けて、実際の演技からモーションキャプチャー(※)する場合があります。『TRIGUN STAMPEDE』の場合はいかがでしょう?

※体中にマーカーを付けて撮影し、3Dの動きデータを取る作業。人間の動きでそのまま3Dモデルを動かせる。

和氣それに関してはゲームと同様で、うちの場合は体の動きもフェイシャルもモーションキャプチャーを使っています。ただ、どちらもあくまで下書きとして使うイメージですね。一度キャプチャーした上で、アニメーターが全部手付けでカットごとに調整しています。

――そうなのですね。ということは、キャラクターそれぞれに動きを演じるモーションアクターがいて?

和氣うちの場合は、モーションアクターもアニメーターがやっていますね。

――えっ、そうなんですか?

和氣CGのアニメーター、その中でもCGディレクターと呼ばれるような役職のスタッフがやっています。これはもしかするとオレンジならではの方針かもしれません。社長もアニメーターなので、自分でモーションを取った上で、自分で直しているんです。このやりかたが受け継がれている部分があるのかなと。

 でもこれって理に適っていて、海外の作画のアニメーションスタジオでも、自分で動いてみて、それを録画してあとでなぞって描くところはあるんです。自分で描くものは、自分で動きを付けたほうがわかりやすいというか……うーん、実際に作ったことがあると実感としてわかると思うのですが、この感じ伝わりますかね?

――マンガだと、野球でも柔道でも、やっぱりマンガ家さん自身にその競技の経験があるほう動きがきちんと描けるみたいなことでしょうか。

内藤ドカベン』の水島新司先生とか、『1・2の三四郎』の小林まこと先生とかね。

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――アニメーター自身で体を動かし演技を付けるほうが、のちの作業でイメージ通りのものにしやすいという感覚はわかる気がします。一方で、「生身の人間にヴァッシュの動きができるんかい!」という疑問も湧くわけですが(笑)。

和氣当然、描きたいように動けないところもあります。アニメーターの体が固くて……とか(笑)。そういうところは手付けでやっています。

内藤プロのアクターさんのほうが当然いい動きになるのでしょうが、「このキャラクターはこういう気持ちで剣を振り下ろしたいんだ!」っていう感情まで乗せたい感じですか?

 それで動いてみて、まあ理想通り動けなくても、「おりゃー!」ってやってみてから自分で直していくと入り込み方が違うとか…。チェック時には「俺こんなに動けてないんだ……」ってしょんぼりしながら直すと思いますが(笑)。

――その行程も含めて重要ということですよね。でも「CGアニメーターをやっていくんだ」と思って、PCの前で作業するのだろうと思って入社された人がモーションアクターまでやるというのは驚くかもしれませんね。

和氣いきなりモーションアクターをやるわけではなくて、一流のアニメーターとしてやれるようになって、肩書で言うとディレクターやサブディレクターになった人にモーションキャプチャーを担当してもらっているんです。

 キャプチャーした後に、手でどのように直すべきなのかがわかるところまで行かないと、自分でキャプチャーする意味もあまりないので。そのころにはオレンジの制作方法が身に付いているので、アクターを兼任する覚悟はできているはずです(笑)。

――ゲーム業界では女性キャラクターは女性アクターが演じることが多いようなのですが、オレンジさんのモーションキャプチャーはいかがですか?

和氣ものによりますね。そのまま女性が付けることもあれば、ちょうどいい人がいなければ頭身が近い人がやるとか。背の低い女性キャラクターを長身の男性が演じても使い物にならないので(笑)。ですから、そこの担当アニメーターでなくても、女キャラクターは女性がやらざるをえないこともありますし、逆に長身の女性キャラクターなら長身の男性アクターでも支障がなかったり。

――モーションキャプチャー時はたとえば“女キャラクターの場合はキレのない動きを意識するとかわいく見える”そうでして、動きかたによってキャラクター性が変わってくると思うと、男女ともども、異性のモーションを実際に動いて録るのはなかなか難しそうです。

和氣作画のアニメでも女性キャラクターは女性しか描かないかといえばそうではないですし、かわいらしい動きを得意としている男性のアニメーターもたくさんいます。CGのアニメーターも、モーションキャプチャーも含めて性別に関わらずできるべきなのかなと。

内藤歌舞伎の女形などと通じているかもしれないですね。アニメーターも“絵に演技させている”という意味では役者ですもんね。

和氣その通りですね。

武藤やっぱり自分で観察したものを自分の中にどのように落とし込むかというのが重要なんだと思います。水面の動きを作る場合、現実の水面を観察するアニメーターもいます。観察したビジュアルを自分ならどうやってデフォルメしてアニメとして表現するのか考える――その思考作業が重要なんだと思います。性別とか、人間だとか、“自分が何者であるか”というのはあまり関係がないのかもしれません。

『宝石の国』、『BEASTARS』、『ゴジラS.P』での技術の蓄積

――『TRIGUN STAMPEDE』の第1話を拝見したところ、キャラクターの髪など細かいところまでボーン(※)が入っていてよく動き、これまで持っていたCGアニメの印象からかなり進化していると感じました。こうした技術の進化は何によってもたらされているのでしょう?

※ボーン……CGのキャラクターを自然にアニメーションさせるため、CGモデルの中に埋め込む骨子のこと。

和氣当然、制作に使っているPCのスペックが上がっているのもあるんですけど、だからといっていっぺんにたくさんの課題をクリアーできるわけではないんです。なのでスタジオとして進化していくためには、作品を手掛ける際、1作ごとに課題を盛り込んで、できるようにする。これを何度もくり返す……というのが経験上ベストです。

 僕がオレンジで関わった作品だと、まず2017年放送の『宝石の国』のときは、宝石を擬人化した、(人間のように見えるけど)人間ではないキャラクターの芝居付けということもあって、できなかったことがありました。まずはおっしゃった通り髪の毛の表現です。あと、顔が卵型のフォルムだったので、立体的な骨格を意識した表情の変化というのもやっていません。

TVアニメ『宝石の国』本PV

和氣つぎに2019年放送の『BEASTARS』(第1期)は登場人物がみんな2足歩行の動物だったんです。体毛が生えているのと、マズル(※)が出ているキャラクターが多くて、立体的な骨格を意識しないと作れないフェイシャルだったので、スタジオとしてはこのふたつの技術を身につけました。

※マズル……動物の鼻から口にかけての部分。『BEASTARS』の登場キャラクターは獣人なので、CGも口元が前方に盛り上がっている。

TVアニメ「BEASTARS」第3弾PV

 和氣そのあとの『ゴジラS.P』(2021年公開)では、“CGで巨大物を作るときにどういった質感でやるべきか”、それからボンズさんとの共同制作だったので、手描きアニメにうちのCGが組み合わされる画面構成を考えたとき、“手描きアニメとCGをなじませる にはどうすればよいか”といった点を検証しながら作っていました。

TVアニメ『ゴジラ S.P<シンギュラポイント>』PV第3弾

和氣短編作品でもいろいろと検証して、ほかの課題もひとつひとつクリアーしてきて、今回の『TRIGUN STAMPEDE』では、スタジオが多くの作品を経て身につけた技術、できるようになったことを全部入れ込んでみようと思っています。

 CGは“人間(キャラクター)をどう描くか”というのがつねにいちばんの課題なんです。そこをよりよいものに仕上げるべく、制作を進めています。

――昨今のCGアニメの表現力の向上というのは、使いやすいソフトが出たとか、単純にPCのスペックが上がったというよりは、CGアニメ分野でスタッフのノウハウが蓄積されたのがいちばん大きいのですね。

和氣『TRIGUN STAMPEDE』をご覧になってCGアニメの進化を感じていただけたのであれば、それは少なくともオレンジ制作のアニメにおいては、クリエイターたちが考える時間をたくさん用意して、着実にノウハウが蓄積するようにしてきたのがいまの表現力につながっているというのが答えになるかなと思います。

各話演出では主権国家的だった武藤氏。監督になり民主国家的に

――そんな、技術面での集大成的な作品でもある『TRIGUN STAMPEDE』で、満を持して武藤さんが監督に抜擢されたわけですが。和氣プロデューサーが武藤監督を見い出した過程もお聞きしてよいでしょうか?

和氣僕が武藤監督と最初に仕事をしたのって、MAPPAさんでのミュージックビデオの制作で、そのあとすぐにテレビシリーズ作品のオープニングとエンディング映像の制作があったんですね。そのころから武藤さんは成長速度が速くて、プロデューサーとして興味深かったんですよ。

 アニメって、「作ってください」と言われてすぐにできるものではないですし、勉強しなければならないこともたくさんあります。その中で武藤監督は日ごろからいろいろな知識を蓄えたり、周囲からの吸収が速いのが、見ていておもしろいなと思ったんですよね。

武藤へぇ~。

――ご本人がへぇーって(笑)。和氣プロデューサーとしては、ぐんぐん力を付けている武藤さんの姿を見て、「今度監督をお願いしてみようか」とご決断されたと。さまざまな知識やノウハウを猛スピードで吸収していけたのは、武藤さんご自身では何がポイントだったとお考えですか?

武藤う~ん、ぼくは好きなことであれば何のストレスもなく勉強できるタイプだからですかね。興味のないことだと非常にストレスを感じるんですけど。そういうところを見抜かれているんだと思いますね。人の適正を見極めるというのはプロデューサーに必要なスキルなんだと思うので、和氣さんはすごいなぁといつも思っています。

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――そうして監督をやるようになって、以前と意識が変わったことはありますか?

武藤各話演出(※)を担当して20分ちょっとを“俺フィルム”にするということと、監督としてシリーズ全体を見渡して、作品全体を理想とするクオリティーに導くのって、別職種なんだなと今回すごく感じています。

 古今東西、いろいろな監督さんのメイキングビデオを観たり、体験談が書かれた本を読んだりすると、皆さん似たような苦労をしていて(笑)。そこから学びつつ、なんとかやっています。

※各話演出……テレビアニメは通常、1話1話の演出を別のスタッフがローテーションで担当しており、彼らを便宜上“各話演出”と呼ぶことがある。一方“監督”は、作品全体のテイストを舵取りする役割。各話演出という役職でキャリアを積んだ人の中から適正がある人が着くことが多い。

――武藤さんは監督になってどういった苦労を?

武藤「ひとりで100%コントロールできることには限界がある!」といまさら気付きました。

内藤扱っている物量が各話演出とシリーズ全体ではぜんぜん違いますもんね。

――演出なら1話ぶんコントロールできればいいところを、シリーズの監督は1クールだとしても12倍とか13倍になるわけですもんね。

武藤加えて、脚本やデザインや音楽の領域もチェックしなければならないし、話数によってはトラブルシューティング業務も発生するので、13倍どころでは済まなかったですね(苦笑)。

内藤各話演出のときは「このキャラクターが登場します」、「シナリオはこれです」というのが先にありますもんね。

――ああ、その話で描かれる外枠というか、概要みたいなものが。

武藤そうです、そうです。各話演出ではおこがましくも、「俺の話数は俺に全部決めさせろ~!」みたいな、出過ぎたことをいままでやってきたんです。「美術ボード(※)を見せろ」とか。

※各シーンの背景を描く上でのベースとなる背景色を具体化した絵のこと。

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和氣ふつう演出という立場ではそういうことは言わないんですよ(笑)、例外もあるんですけど。

――武藤さんは例外だった。

武藤自分が監督になって、それどころじゃない物量をコントロールする立場になると……たいへんですけど、おもしろいなぁとも思って。演出をやっていたときの僕は、すごく主権国家的だったと思うんです。監督をやるようになると、いろいろな人の力をお借りする立場なのもあって、民主主義的になりました。以前よりも現実の政治にも興味を持つようになって、最近は政治についての本を読んでいます。

――勉強熱心!

自分と似たタイプの演出家と関わって、最初は「嫌だな……」と思った

――基本的な質問なのですが、アニメの“演出”と“監督”の仕事というのは、具体的にはどういった違いがあるのでしょうか?

和氣テレビや配信などのシリーズものと映画とでは若干違うのですが。シリーズものの場合、演出は各話数をディレクションする役割ですね。監督は作品そのものをディレクションするんです。ただ、「ここは必ず監督の領分」みたいな、明確な分けかたはしていなかったりします。

 先ほど武藤さんが演出のときに「美術ボードを見せろ」と言ったことを話していましたが、それは基本的には監督の仕事だけど、演出でチェックする場合もあったりだとか。その線引きも作品によって違ってくるんです。

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――武藤さんみたいに各話の演出の人が「こういうシナリオだけど、もっとこうしたほうがおもしろいじゃん」と絵コンテの段階で改変しようとしたとき、監督に「勝手なことするんじゃないよ!」みたいに注意されたりはしないんですか?

武藤監督によるんでしょうね。「昔はそういう演出の人が多かった」と西村さん(※)から直接聞いています。西村さんが『新世紀GPXサイバーフォーミュラ』に参加していたころなどはそうだったと。

※西村さん……西村聡氏。前作のアニメ『トライガン』の監督。

内藤福田さん(※)に怒られていたってことですか(笑)。でもコンテは各話演出の人が切っているんですよね? 

※福田さん……福田己津央氏。『新世紀GPXサイバーフォーミュラ』などの監督。

――各話演出の人がまずシナリオをもとにコンテを描いて、そこに一度監督のチェックが入るという手順でしょうか? そのときに監督が「さすがにこれはやり過ぎだな」と思ったら赤を入れて再提出になったり、「こういう個性の出しかたは作品にとってもいいね」とゴーサインを出したり。

武藤そういうことです。

内藤作画をお願いしたアニメーターさんがすごく個性を出してくる場合もきっとありますよね。“バサッと斬る→倒れる”くらいのシーンを「ウラウラウラウラウラァーッ! ドォーン!! バァンバァンバァン! バキーン!! ドサァ!!」みたいに描いたら「何やってるんですか! うーん……でもすごくいいからこのままもらっていきます」みたいな。

武藤・和氣 それはありますね(笑)。

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――ふふ(笑)。ここまでのお話を伺うと武藤監督は演出のときから「自分がおもしろいと感じるのはこうだ!」というのをドンドン出していった方だと思うのですけど、『TRIGUN STAMPEDE』で「自分と同じタイプだな」と感じる演出家さんというのはいらっしゃいますか?

武藤はい、いますね……。

――そういう方に監督として関わると、どんなふうに感じるものですか?

武藤正直、始めはけっこう「嫌だな……」と思った瞬間がありました。自分と同じタイプなのに。

――ははは。

武藤でも、それがなんで嫌だったかというと、自分を出すタイプという意味では僕と似ていても、“演出の好み”は僕と違っていたからなんですよ。でも「シリーズの大きな流れとしてどうか?」という視点に立ってみると、決して間違いではないと思えるようになって。

――演出の立場で見ると「自分の好みと合わないな」と感じるけれど、監督として見ると「いくつものエピソードの中にこういった味付けがひとつあっても、それはそれでアリなんじゃないか」と感じるようになったと。

武藤けっきょく、トータルで“おいしい料理になればいい”んですよね。自分がいち演出の立場だったら、ほかの話数を担当している演出には「なんだよこれ」って思うじゃないですか。「この演出は違うよな、僕ならそうはやらないよ」って。

――ある種ライバル意識もありつつ。

武藤でも、大きなものを大勢で協力しながら作っていく中で、ちょっと変わった味わいの食材が入っていると考えると、意外とそれがプラスに働くこともあるんだなと。これも監督をやるようになって気付いたことですね。

内藤それは監督をやってみないとわからないですよね……。オレンジさんはけっこう、演出を担当される方の色がすごく出やすい作りかたをしていると、東宝の武井プロデューサー もおっしゃっていました。

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和氣CGアニメ制作って、すごく分業しているところが多いんですよ。レイアウトを決める人、アニメーションを付ける人、“揺れもの”(※)だけやる人……と、作業を分担して。

 でも、オレンジではその行程を全部ひとりでやっているんですよね。1カットを最初から最後までひとりの人間が仕上げる。アニメーターによって違う仕上がりになりやすいというのは特殊なところかもしれません。

※揺れもの……キャラクターが動くたびに揺れるマントや髪の毛などのこと。CGではほかの物体にめり込んだりして制御するのが難しい。

――流れ作業のベルトコンベア方式じゃなくて、ひとりの時計職人がひとつを全部組み上げるみたいなイメージですかね。でもそれだと、生産効率を考えたときに不利なのでは?

和氣効率というのは、ただ単に「多くの製品が作れました」というだけではなくて、作品が最終的にどれだけいい仕上がりになるかどうか……というのも“効率がいい”ということの考えかただと思うので、オレンジではそうしています。

内藤僕も今回いっしょにお仕事をして初めて知ったのですが、オレンジさんは作画アニメに近いことをあえてCGでやっているところがあるなと思っているんです。分業で全体を整えるのではなく、作り手ひとりひとりの個性が活きる作品づくりをしているという意味で。外からだとなかなかわからないですよね。

――わからないですねえ。

内藤それが結果として、手描きアニメともまったく違う、CGならではの強みを活かす作品づくりにもつながっている気がするんです。マンガ家として何度かアニメに関わらせてもらった自分からしても、発想の根っこの部分からぜんぜん違うと感じるので、この辺りの話をいろいろなメディアで掘り下げてみてほしいですね。

TVアニメ『TRIGUN STAMPEDE』PV第三弾

『TRIGUN STAMPEDE』のキーマン3名に話を聞きに行って

 や、もう、なにしろかっこいいのです。

 荒野なウエスタン×SF×ガンアクション。ヴァッシュが笑い、飛び、跳ね、撃ち、戦う。底抜けに明るい平和主義者な主人公と暗い過去を背負った関西弁の相棒。血しぶき舞い上がる異形の敵との対決。漂うハードボイルドさ。ページに込められた熱量。

 マンガ『トライガン』というのは大手週刊少年マンガ誌での連載ではありませんでしたが、それすらも魅力的で、当時の青少年の胸をうがつというかえぐるというか、とにかく深く強く印象に残る作品でした。

 それが令和の時代に新たにアニメ化されるというのですからこれは期待せざるをえない。しかもフルCGアニメであるといいます。なぜいま『トライガン』を? そしてCGで? という疑問を胸に挑んだインタビュー。その答えは「『トライガン』が好きだから」、「アクションで感情を描ける武藤監督ならば新しい作品が作れると思ったから」。

 新たな技術、新たな才能によって新たに生み出される、新たな時代の『トライガン』。2023年の放送がより楽しみになってきましたよ!

(堅田ヒカル)

作品情報

  • 『TRIGUN STAMPEDE』

放送時期

  • 2023年1月よりテレビ東京ほかにて放送開始

メインスタッフ

  • 原作:内藤泰弘(少年画報社 ヤングキングコミックス刊)
  • 監督:武藤健司
  • ストーリー原案:オキシタケヒコ
  • 構成・脚本:稲本達郎 岡嶋心 上田よし久
  • コンセプトアート・キャラクター原案:田島光二
  • チーフデザイナー:大津直
  • キャラクターデザイン:渡邊功大 諸貫哲朗 阿比留隆彦 佐藤秋子 二宮壮史 天野弓彦
  • セットデザイン:青木智由紀 藤瀬智康 榊枝利行 上條安里
  • クリーチャーデザイン:山森英司
  • スペシャルエフェクトデザイン:押山清高
  • CGチーフディレクター:井野元英二
  • VFXアートディレクター:山本健介 早川大嗣
  • 色彩設計:橋本賢
  • 美術監督:金子雄司
  • 画面設計:斉藤寛
  • 撮影監督:青木隆 越田竜大
  • 編集:今井大介
  • リレコーディングミキサー:藤島敬弘
  • サウンドエディター:勝俣まさとし
  • 音楽:加藤達也
  • 制作:オレンジ

メインキャスト

  • ヴァッシュ・ザ・スタンピード:松岡禎丞
  • メリル・ストライフ:あんどうさくら
  • ロベルト・デニーロ:松田賢二
  • ニコラス・D・ウルフウッド:細谷佳正
  • ミリオンズ・ナイヴズ:池田純矢
  • レガート・ブルーサマーズ:内山昂輝
  • ザジ・ザ・ビースト:TARAKO
  • ウィリアム・コンラッド:中尾隆聖
  • ヴァッシュ・ザ・スタンピード(幼少期):黒沢ともよ
  • ミリオンズ・ナイヴズ(幼少期):花守ゆみり
  • レム・セイブレム:坂本真綾

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