先月、父が亡くなった。８８歳だった。悲しみよりも、通夜と告別式を執り行うための打ち合わせや段取りで気が張り、涙も出なかった。
通夜の前、納棺師の男性（４０歳くらい）が来られ、父の体を整え、旅立ちの準備をしてくださった。終始穏やかな表情で粛々と父に向き合い作業をすすめてくれた。父に化粧を施す際に開けた化粧箱にはシャネルの容器がずらりと並び、少々驚いた。
男性は美容師として働いておられたが、ご自身のおばあさまの納棺時の化粧に違和感を持たれ、メークの知識もある自分ならもっと自然な化粧ができるのではないかと転職した理由を話してくださった。
男性は化粧をする前に私たちに「このシミとこのシミを消しますね、全て消すとお父さまではなくなりますから」と断り、２つのシミを丁寧にコンシーラーで消してくれた。顔全体にはいくつかのファンデーションを混ぜ合わせ、自然な肌色に仕上げてくださった。出来上がった父の顔は、とても生き生きして晴れやかな表情だった。これがプロの化粧かと驚いた。
そのとき、耳元で「えらい男前になったやろ」とおどけた調子で話す父の声が聞こえた。私も「そやな、実物より何倍もええわ」と心の中で答えた。その瞬間、初めて涙が出た。
納棺師さんへ。父と最後の会話をさせてくれてありがとう。あちらで母と会うときにかっこいい父にしてくれてありがとう。なにより、残された家族の気持ちに寄り添って父を大切に扱ってくれてありがとう。感謝。
財前愛子（５４） 大阪府河内長野市
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July 31, 2022 at 03:00AM
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