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川崎重工が挑む、化石燃料から作る「ブルー水素」。日本に新・輸出産業つくれるか【脱炭素とはなにか#3】 - Business Insider Japan

4月22日、菅義偉首相はパリ協定で掲げた2030年までの二酸化炭素の削減目標を2013年比で26%から46%に見直すことを宣言した。二酸化炭素の排出量削減に向けた取り組みは、今後も加速していくことは間違いない。

脱炭素の具体的な戦略として、再生可能エネルギーの導入やEVの普及などに注目が集まる中、2020年12月に発表されたロードマップ「グリーン成長戦略」で強調されていたのが「水素産業」だ。

「脱炭素とはなにか」の第3回では、水素産業を成長産業とするための重要なプレーヤー、川崎重工業を取り上げる。

なぜ今「水素発電」が注目されているのか

川崎重工

撮影:三ツ村崇志

「80%削減という目標を掲げていた以前までなら、残り20%分の二酸化炭素を排出しても、誰かがその分を頑張って減らしてくれる、という発想があったんです。ただ、100%削減となるとそういう逃げ道がなくなります」

川崎重工業、水素戦略本部副本部長・西村元彦執行役員は、2020年末から急激に動き始めた日本の脱炭素に向けた取り組みにおける変化をこう語る。

世界では、二酸化炭素の排出量を削減するために、まず第一の手段として再生可能エネルギーの普及が進められている。

しかし再生可能エネルギーは天候などに応じて出力が大きく変動するリスクがある。そのため、短期的に電力が不足してしまう場合のリスク管理として、燃料を燃やして発電する火力発電のようなタイプの発電手法が必要とされている。

水素を燃料とした「水素発電」が注目されているのはこのためだ。

ただし、水素の重要性はそれだけではない。

西村執行役員は、「水素は、産業界の多くのプレイヤーを巻き込み、経済を回していくことができます」と脱炭素を進めていく上での重要性を語る。

「水素は燃料電池自動車(水素を燃料に走る)としてバス・トラックというヘビーデューティ系のものにも使えるし、化学産業の原料として使うこともできる。さらに工業の現場で、高温が必要になる際に熱源として使うこともできる。こういった産業のセクター間で融通もできます」(西村執行役員)

二酸化炭素の排出量削減をしつつ経済成長を進めるには、関係産業の数が多いに越したことはない。

世界で見ると、水素市場は2.5兆ドル規模。自動車業界に匹敵する3000万人という雇用を生む可能性も秘めているという試算もある。

こういった観点から、政府のグリーン成長戦略では水素産業を「2050年に化石燃料に対して十分な競争力を有する水準を目指す」としており、2030年に最大300万トン、2050年に2000万トン程度の導入を目標値として掲げている

まだ世界にたった一隻、オーストラリアから大量の水素を運ぶ

世界初の液化水素運搬船「すいそ ふろんてぃあ」

世界初の液化水素運搬船「すいそ ふろんてぃあ」。オーストラリアで液化されたっ水素を、日本まで輸送する。

動画『川崎重工: 液化水素運搬船「すいそ ふろんてぃあ」進水式』より

水素産業を進める上で、課題となるのは「水素をどこから調達するのか?」という問題だ。

川崎重工は、日豪の政府、岩谷産業や電源開発(J-POWER)、丸紅などの日豪の民間企業と協力して、オーストラリアで採掘される「褐炭」という未利用の化石燃料から水素を製造するプラントを建設。日本をはじめとしたアジア各国などへと流通させる一大サプライチェーンを構築するためのパイロット実証を進めている。

一般的に、化石燃料をもとに水素を作る際にはどうしても二酸化炭素が排出されてしまう。

川崎重工らのプロジェクトでは、ここで生じる二酸化炭素を二酸化炭素貯留技術(CCS)で地中に埋め戻すことで、クリーンな水素「ブルー水素」を生産している。

褐炭

オーストラリア・ヴィクトリア州ラトローブ・バレーに位置するロイヤン褐炭火力発電所炭田。ここから取れる褐炭を使って、水素を製造する。

提供:川崎重工

現在、すでにプラントは稼働しており、水素を蓄積し始めている状況だ。

褐炭から得られた水素は、プラントからパイプラインを通じて港まで運ばると、川崎重工製の液化機でマイナス約253度以下まで冷却。「液体水素」の状態で、船で日本まで輸送される。

「ここに技術的な開発余地があります。

液体水素を大量に溜めたり、大量に運んだりする船がないんです。今は、液体水素を運べる船は世界にたった1隻『すいそ ふろんてぃあ』(川崎重工の液化水素運搬船)だけですから、これを実装していくことが今後の肝になっていきます」(西村執行役員)

液体水素は宇宙開発などの分野でも利用されている。100℃のお湯を入れて1カ月放置しても1度しか温度が下がらないようなレベルの断熱装置も存在する。

しかし、これらはすべて陸上での話。

絶え間なく揺れる船舶上で、大量の液体水素を安全に、確実に運ぶには、かなりの工夫が必要となる。

水素に一気通貫で携わる意味

太陽光発電

海外では、日本に比べて再生可能エネルギーのコストが安い国も多い。

REUTERS/Athit Perawongmetha

日本へ運ばれた液体水素は、兵庫県神戸市にある世界最大級の液化水素の受入基地に運ばれる。

川崎重工は、このパイロット実証において、水素の製造から輸送、そして水素の利用まで、一連の工程全てに携わっている。

「サプライチェーン全般をカバーすることで、前後のインターフェースを踏まえて各機器を適正なスペックにセットすることができます。また、全体が分からないと、安全面や運用面でどういった部分が問題になるのか分からなくなります。国際的なルール作りでの発言力が弱くなってしまいます」(西村執行役員)

実際、液体水素運搬用の大型船舶の国際規格は、現時点では仮ルールとして日本が主導した規格が適用されている。

川崎重工の「すいそ ふろんてぃあ」は、この仮ルールに準拠して設計されたものだ。

「『すいそ ふろんてぃあ』が標準設計となっていきます。ルール作りにおいて非常に良いポジションにいます」(西村執行役員)

グリーン成長戦略では、常温常圧の水素1立方メートルあたりの供給コストを2030年の段階で約30円にするよう目標が立てられている。

西村執行役員によれば、川崎重工がオーストラリアで進めている褐炭から水素を製造するプロセスのコスト試算は29.7円。

再生可能エネルギーを利用した水の電気分解で同じレベルのコストの水素を製造しようとした場合、供給価格が1kWhあたり2円程度にならないと難しいという。

再エネのコストは国によって大きく差がある。資源エネルギー庁の資料によると、最安値はUAEの3円/kWh。日本の場合、太陽光・風力発電ともに安くても1kWhあたり10円台の前半だ。海外の安い再エネ由来の電気で水素を作り、輸送インフラで国内に持ち込むという選択肢も十分考えられる。

「ビジネスが軌道に乗りやすい化石燃料由来の水素でインフラを整えるんですが、オーストラリアでは再生可能エネルギーのポテンシャルが見えてきています。将来的には、再生可能エネルギー由来の水素(の輸送)に軸足を移して、持続可能なエネルギーに転換できます」(西村執行役員)

水素インフラは日本の新たな輸出産業になる?

水素発電機

2020年7月には、高い効率で発電できる水素発電機の実証に成功した。ただし、まだ課題はある。

提供:川崎重工

川崎重工は、水素を「消費」する部分でも、2018年に水素発電に成功。神戸市のポートアイランドの市街地で、水素を利用して熱と電気を供給するコジェネレーションシステムの実証を進めてきた。

川崎重工が開発しているのは小型の水素発電機。水素発電導⼊期の需要を見込み、LNG(液化天然ガス)と水素を混焼させるタイプだ。

現在、2018年に発電に成功したタイプよりも更に効率の高い方式の発電機の実証を進めている。

「今進めているオーストラリアとの(液化水素輸送の)パイロット実証をやり切って、次は2020年代半ばに商用化実証。2030年にはおそらく世界初となる大型の商用サプライチェーンを作り、そのときには発電もやります。

そのモデルをしっかり構築できれば、現在LNGを大量に使っている東南アジア地域にこのインフラを輸出していくことで、2050年には液化水素で日本がリードできればと思っています」

(文・三ツ村崇志

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