石川県の南部に位置する能美市は、日本海や河川、里山などに囲まれた自然豊かな地であるとともに、九谷焼の産地です。九谷焼は、能美市をはじめ金沢市や加賀市、小松市で生産される伝統工芸。能美市がほこる九谷焼について、あらゆる角度から楽しめるのが「九谷陶芸村」です。九谷焼の名品を鑑賞できる「KAM能美市九谷焼美術館」(※)や九谷焼を購入できる専門店などが並び、九谷焼にまつわるさまざまな体験ができます。KAM能美市九谷焼美術館|五彩館|・|浅蔵五十吉記念館|施設長の最上進さんに、九谷陶芸村の見どころを教えてもらいました。
※KAMはThe Kutani porcelain Art Museumの頭文字
名品とともに九谷焼の歴史をたどる「五彩館」
能美市九谷焼美術館は、4つの施設で構成されています。
- |五彩館|
- |浅蔵五十吉記念館|
- |体験館|
- |職人工房|
九谷焼の基本を知りたい方は、まずは五彩館へ行ってみましょう。九谷焼の名品を鑑賞しながら、九谷焼の歴史や制作過程、代表的な作風を学べます。 “五彩”館という名のとおり、「紺青の間」「朱赤の間」「紫の間」「緑の間」「黄色の間」の5つの展示室で九谷焼を紹介。ちなみにこの”五彩”は、伝統的な技法「九谷五彩」で施される5つの色彩にちなんでいます。
360年以上も前の九谷焼から近現代九谷の巨匠の作品まで
「紺青の間」では、「九谷五彩」や「青手」など伝統的な作風の九谷焼を紹介。360年以上も前につくられた古九谷や、古九谷の作風を再現しようと試みた江戸時代後期の再興九谷など、九谷焼の歴史を形作ってきた名品を鑑賞できます。
九谷焼の歴史について、最上さんはこう説明しています。
「九谷焼は、江戸時代前期の1655年頃に加賀の大聖寺藩(※)九谷村で生まれました。加賀で陶石が発見されたのを機に、有田で製陶法を学んだ藩士が窯を開いたのです。この時代の九谷焼を『古九谷』と呼びます。ところが約50年後、窯は閉じられ、『古九谷』は生産されなくなりました。それから100年ほど経って、『古九谷』の作風を受け継いだ『再興九谷』が作られるようになり、現代の九谷焼へとつながっていきます」(最上さん)
※加賀藩の支藩
窯が突然閉じられた理由は諸説あるとのこと。「窯で使用するアカマツの薪を伐採することを藩が禁じた」「当時は窯の精度があまり良くなかった」など様々な理由が憶測されます。
九谷焼といえば、昔ながらの絵付けを思い浮かべる方も多いかもしれません。筆者もその一人でした。ところが展示室を歩き、作家独自の個性が光る作品を目にするうちに、九谷焼へのイメージが覆っていくのを感じました。たとえば三代德田八十吉(人間国宝)の「燿彩壺」は、揺らめく色彩が印象的。三代八十吉は、祖父の初代八十吉から上絵釉薬の技術を受け継ぎ、試行錯誤を繰り返してグラデーションの色彩表現を編み出しました。
このように、古くから技法を大切にしながら、新たな表現や技法を開拓していった作り手の努力によって、九谷焼は多様化してきたのです。そして今、若手作家によって新たな九谷焼が生み出されているといいます。
豪華絢爛な赤絵九谷の世界を堪能
この華麗なる展示室は「朱赤の間」です。「朱赤の間」では、江戸時代後期の赤絵九谷を中心に名品を紹介。明治時代、輸出向けにつくられた赤絵九谷は、日本の外貨獲得の一役を担いました。その豪華絢爛さが欧米で人気を博し、九谷焼は「ジャパンクタニ」という名で親しまれます。特に評判だったのが、本金で彩る「金襴手」の作品でした。
鮮やかな作品がズラリと並ぶ展示室で、ひときわ目を引いたのが九谷庄三「龍花卉文農耕図盤」です。うつわ全体を覆いつくすように、緻密に描かれた花鳥や文様。そのなかに、何場面かにわたって農耕図が描かれています。美しさとともにストーリーが展開していく、絵巻物のような作品です。
「紺青の間」「朱赤の間」のほか、個展や企画展を開催する「紫の間」「緑の間」、九谷焼の制作工程を学べる「黄色の間」など、見ごたえがあります。
ちなみに、館内の作品は常設展に限り写真撮影OK。細やかな絵付けは、あえてカメラにおさめ、拡大してじっくり見ても良いかもしれません。
ミュージアムショップも必見
ミュージアムショップでは、九谷焼の絵柄のマスキングテープ、一筆箋などを販売しています。最上さんのイチオシは、6枚セットで660円の九谷焼の紙皿。
「お正月などのハレの日やホームパーティーのときに、気軽に九谷焼の名品に料理を盛り付けたり、飾ったりして楽しめますよ」(最上さん)
二代浅蔵五十吉の代表作が一堂に会す「浅蔵五十吉記念館」
五彩館の近くにある「浅蔵五十吉記念館」では、二代浅蔵五十吉(1913年~1998年)の代表作を展示しています。二代浅蔵五十吉は、九谷焼の伝統を受け継ぎながら、新たな技法や色彩表現を切り開いたことで称えられ、1984年に芸術院会員になり、1996年に文化勲章を受章しました。
展示室には、独自の造形や色彩の作品が悠々と並びます。なかでも、「五十吉カラー」と呼ばれる深い黄色の作品が味わい深く、目に焼き付きました。
開放感あふれる展示空間も心地よく、作品をじっくり鑑賞できます。実は、同館を設計した建築家・池原義郎(1928年~2017年)は、二代浅蔵五十吉と親交があったそうです。
作品はもちろんのこと、建築を目当てに同館を訪れる人も多いとのこと。最上さんは、「秋は紅葉が映え、冬はエントランス横の水盤に雪が積もるなど、季節によって異なる美しさを見せてくれます」と話していました。
「職人工房」「体験館」で制作過程を覗く
九谷焼が生み出される現場を覗くことができるのが、職人工房です。入場無料で職人の作業風景を見学できます。さまざまな道具、完成途中のうつわが所狭しと並ぶ工房に足を踏み入れ、職人技を間近で見ると、九谷焼がより身近に感じられました。職人からうつわを購入できるのもうれしいものです。
九谷焼の制作過程を体感したい方は、体験館(※)もおすすめです。体験館では「絵付体験」や「作陶体験」のほか、本格的な陶芸教室も開催されています。
※2023年6月~2024年2月まで改修工事のため休館予定
お気に入りの九谷焼を探しに
「九谷陶芸村」の一角には、九谷焼を購入できる専門店が約10店舗立ち並びます。店舗ごとに取り扱う作品のカラーが異なるのが、面白いところ。伝統的な技法を駆使した作品、普段使いにもぴったりのモダンな作品など、様々な作品に出会えました。思い出の一品やお土産を購入したい方は、ぜひ立ち寄ってみてください。お気に入りのうつわに出会えるはず。
九谷焼の歴史を学びながら名品と向き合い、制作風景を見学し、実際に作って、お気に入りのうつわに出会う――。九谷陶芸村は「知りたい」「見たい」「作りたい」「買いたい」という、うつわに関するあらゆる「希望」を満たしてくれるスポットです。うつわ好きは間違いなく一日中楽しめることでしょう。知的好奇心を満たす旅、感性を揺さぶる旅がしたい方にも絶好のスポットです。
KAM能美市九谷焼美術館(九谷陶芸村) |
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住所:〒923-1111 石川県能美市泉台町南56 |
開館時間:9:00〜17:00 ※五彩館・浅蔵五十吉記念館は16:30、体験館は16:00までに入館 |
入館料:五彩館・浅蔵五十吉記念館共通入館券 一般430円/75歳以上 320円 高校生以下は無料 職人工房・体験館は入館無料 |
休館日:毎週月曜日(月曜日が祝日の場合は翌日休館)、年末年始(12月29日〜翌年1月3日)、臨時休館(展示替え等のため) |
アクセス:JR能美根上駅(金沢駅から北陸本線で約25分)よりタクシーで約15分、またはバス(連携ルート(日中))乗車、泉台コミュニティセンター下車、徒歩7分 |
詳しくは同館の公式サイトへ。 |
(読売新聞美術展ナビ編集班・美間実沙)
からの記事と詳細 ( 【探訪・石川県能美市①】九谷焼を「知る」「見る」「作る」「買う」 九谷焼にまつわる様々な体験ができる「九谷陶芸村」 - 読売新聞社 )
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